生活習慣病とは?

「生活習慣病」とは「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」です。

食生活、運動不足に関連が深いものとして糖尿病、肥満症、高脂血症、高血圧症などがあり、進行すると、心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病などに発展するリスクが高まります。また、喫煙や過度な飲酒によって発症する疾患には、肝硬変や脂肪肝、各種のがんなどもあります。
生活習慣病は、発症してしまうとしばしば予後が不良なため、予防が重要です。予防のためには、規則正しく、かつ栄養のバランスが取れた食事と適度な運動、さらにストレスを上手に発散して精神的にも健全な生活を心がけましょう。

糖尿病ってどんな病気?

糖尿病は、血液の中のブドウ糖(グルコース)の濃度(血糖値)が高い状態(高血糖状態)が続く病気です。放っておくと、さまざまな臓器に合併症が起こる危険性が高くなります。

私たちの食事の主食となる米やパンなどに多く含まれる糖質(炭水化物)は、小腸でブドウ糖に分解されて、血液の中に吸収されます。

この血液中の糖の値(血糖値)は、体の中の「インスリン」というホルモンの作用で、ほぼ一定の値に保たれています。この血糖を調節する仕組みがうまく働かなくなり、血糖値が高い状態(高血糖状態)が続くようになってしまうのが糖尿病です。

血糖値が高くても、最初のうちは、ほとんど症状を感じることはありません。しかし、血糖の高い状態が続くと、のどの渇き、疲労感、多尿・頻尿、体重減少などの症状が現れるようになり、次第に全身の血管や神経が傷ついて、全身のさまざまな臓器に影響が起こってきます。
逆に、糖尿病になっても、食事療法や運動療法、薬によって血糖をきちんとコントロールできれば、症状がなくなり、合併症を予防できるのです。

糖尿病の診断

糖尿病は、血糖値HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)の値を調べて、その結果から診断されます。

次の(1)~(4)のいずれかに当てはまる場合を「糖尿病型」といい、別の日に行った検査でも糖尿病型であることが再確認できれば「糖尿病」と診断されます。

(1) 空腹時に測定した血糖値(空腹時血糖値)が126mg/dL以上
(2) ブドウ糖を飲んだ2時間後に測定した血糖値(ブドウ糖負荷試験2時間値)が200mg/dL以上
(3) 食事の時間に関係なく測定した血糖値(随時血糖値)が200mg/dL以上
(4) HbA1cが6.5%以上

※同じ日に(1)~(3)のいずれかと(4)が確認された場合は、その検査だけで「糖尿病」と診断されます。
※血糖値が糖尿病型を示し((1)~(3))、よくみられる糖尿病の症状などがある場合にも「糖尿病」と診断されます。
※2回の検査の少なくともどちらか一方で血糖値の基準を満たしていることが必要で、HbA1cのみの反復検査では診断はできません。

血糖値が正常な「正常型」と「糖尿病型」との間には「境界型」と診断される方がいますが、これは糖尿病になりつつあるか、もうすでに糖尿病になっている可能性があります。それを確定するために、ブドウ糖負荷試験があります。

空腹時血糖値および75gOGTT(ブドウ糖負荷試験)による判定区分

注1) IFGは空腹時血糖値110~125mg/dLで、2時間値を測定した場合には140mg/dL未満の群を示す(WHO)。ただしADA(米国糖尿病学会)では空腹時血糖値100~125mg/dLとして、空腹時血糖値のみで判定している。
注2) 空腹時血糖値が100~109mg/dLは正常域ではあるが、「正常高値」とする。この集団は糖尿病への移行やOGTT(ブドウ糖負荷試験)時の耐糖能障害の程度からみて多様な集団であるため、OGTTを行うことが勧められる。
注3) IGTはWHOの糖尿病診断基準に取り入れられた分類で、空腹時血糖値126mg/dL未満、75gOGTT2時間値140~199mg/dLの群を示す。

日本糖尿病学会 編・著:「糖尿病治療ガイド2016-2017」p.23,文光堂,2016

糖尿病の種類

糖尿病は、大きく分けて次の2つのタイプに分けられます。

1型糖尿病

インスリンを作るすい臓のランゲルハンス島が働かず、インスリンが全く(またはごくわずかしか)作られなくなっているタイプの糖尿病です。原因ははっきり分かっていませんが、ウイルス感染などをきっかけに起こることもあります。

日本ではこのタイプの患者さんは少なく、全体の数%程度です。小児期に発病する方が多いという特徴がありますが、成人してからこのタイプの糖尿病が起こる方もいます。

2型糖尿病

すい臓から分泌されるインスリンの量が少なかったり、インスリンの働きが悪くなったりしている場合に起こる糖尿病で、日本の糖尿病患者さんの95%以上がこのタイプです。

2型糖尿病になる原因は、遺伝的に糖尿病になりやすい体質と、食べ過ぎや運動不足、肥満、喫煙、飲酒、ストレス、加齢などさまざまなことが関わっているといわれています。

中高年に多いタイプの糖尿病ですが、食生活の変化などにより、小中学生の間にも患者さんが増えていることが問題となっています。
この2つのタイプの糖尿病の他に、他の病気や特定の薬の影響で起こる糖尿病、妊娠をきっかけに起こる糖尿病(妊娠糖尿病)もあります。

1型糖尿病と2型糖尿病

糖尿病の合併症

血糖値が高い状態が続くと、さまざまな合併症が起こります。このうち糖尿病に特有な合併症として3大合併症といわれる「網膜症」「腎症」「神経障害」があり、また糖尿病と関係が深い合併症として動脈硬化によって起こる心筋梗塞、脳卒中などの病気があります。

これらの合併症は、糖尿病の治療がきちんとできていれば予防できることが分かっており、また、仮に合併症になっても早く発見し治療すれば進行を遅らせることができます。

網膜症

血糖値が高いことによって、目の網膜(もうまく:眼球の後ろにある光を感じる部分)に栄養を送っている細い血管の流れが悪くなったり詰まったりすることで、出血が起こったり、血管からしみ出たタンパク質や脂肪が網膜に沈着したりする病気です。進行すると、失明につながることもあります。初めのうちは症状がほとんどないため、気づかないうちに進んでいることがあります。糖尿病と診断された時、そしてその後も、必ず定期的に眼科で検診を受けることが大切です。

腎症

血糖値が高い状態が続くことで、血液中の老廃物を尿として体の外に出す働きを持つ腎臓の細い血管(糸球体)の流れが悪くなり、腎臓の機能が落ちてしまう病気です。症状を感じることはほとんどなく、初めのうちは尿にタンパクが時々出る程度ですが、そのまま放っておくと常にタンパク尿となり、やがて腎臓がほとんど働かなくなる腎不全となって人工透析が必要となります。

神経障害

血糖値が高い状態が続くことで、さまざまな神経線維に障害が起こる合併症です。痛みなどを伝える神経が障害されると手足の感覚がにぶくなったり、じんじん・ピリピリしたり、しびれたりします。痛みが出ることもあります。

臓器の働きを調節している自律神経が障害されると、胃のもたれや下痢、便秘、膀胱の異常(尿が出にくい・尿が残る感じなど)、勃起障害(ED)などが現れます。

動脈硬化による病気(心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患など)

糖尿病は、動脈硬化を進め、心筋梗塞、脳梗塞など動脈硬化によって起こる病気の危険性を高めます。高血圧、脂質異常症や肥満、喫煙など、動脈硬化を進める他の要因をあわせ持っている方は、とくに注意しなくてはなりません。
糖尿病がある場合には足病変にも注意しましょう。特に、糖尿病による神経障害のために手足の指先の感覚が鈍くなり、気づかないうちにやけどや怪我をしてしまうことや、さらにその傷に気づかないまま、患部が化膿し重い感染症を起こしたり、組織が死んで、その部分を切らなくてはならなくなる壊疽(えそ)になることです。気になる症状が現れたら、すぐに医師に報告するようにしましょう。

歯周病

歯周病も糖尿病の合併症のひとつです。糖尿病の人では糖尿病でない人と比べ、歯周病にかかる頻度が高く、進行も促進されます。歯周病を未治療のままにして重症化すると、血糖コントロールに悪い影響が出ます。

認知症、うつ病など

高齢の糖尿病患者さんが認知症を起こすリスクは糖尿病でない方と比べて2~4倍といわれています。認知症は血糖コントロールを悪化させます。また、不眠(寝つけない、夜中に目が覚めてその後眠れない、朝早く目が覚めるなど)は糖尿病の患者さんにしばしばみられます。不眠は血糖コントロールを悪くすることがあるため、不眠が続く時は主治医と相談しましょう。また、糖尿病の患者さんは、うつ状態になる頻度が高いことも分かっていますが、うつ状態になると糖尿病治療に対する意欲がなくなり、血糖コントロールにも悪い影響があります。ゆううつ感、それまで興味・関心があったことに興味がなくなった、気力がわかない、食欲がないなどの症状が2週間以上続くようであれば主治医と相談するようにしてください。

高血糖による合併症(急性合併症)

主に1型糖尿病の方で血糖値が非常に高くなった時に起こる合併症として糖尿病ケトアシドーシス(ケトン性昏睡)や、ケトン体があまり作られない高血糖高浸透圧症候群があります。ただちに治療が必要なため、ふだんから症状や対処方法などを医師とよく相談しておきましょう。

感染症(急性合併症)

糖尿病の治療がうまくいっていないと、肺炎、膀胱炎、皮膚炎、歯肉炎などの感染症が起こりやすくなります。またこうした感染症が起こると、急に血糖のコントロールが悪くなることがあります。風邪をひかない・悪化させない、トイレをがまんしない、きちんと歯磨きをするなど、ふだんから注意してください。また、発熱や排尿の時の痛み、皮膚や歯ぐきの腫れ、化膿などがみられた時は早めに受診してください。

糖尿病の治療

2型糖尿病には、食事や運動などの生活習慣が深く関係しているため、基本は食事療法と運動療法になります。食事療法と運動療法で血糖値が改善しない時や、血糖値が非常に高く、急いで下げる必要がある場合などに薬物療法が行われます。

1型糖尿病では、インスリンによる治療が最初から欠かせませんが、血糖値をより良くコントロールし、インスリンの量を減らしていくためにも、やはり食事療法、運動療法は基本の治療として続けていくことが大切です。

食事療法

食事からとるエネルギーが多すぎる(過食)と、それを処理するためのインスリンが足りなくなって血糖値が高くなります。食事療法では、それぞれの患者さんの体格や毎日の活動の量に応じた適切なエネルギーをとれることを目標として、食事の量や栄養バランスを考えます。

運動療法

運動療法は消費エネルギーを増やすことで、体内のエネルギーが余分になることを抑えて、肥満の解消にもつながります。

また運動療法により、筋肉や肝臓のインスリンに対する反応性が良くなり、体内のブドウ糖をスムーズに利用できるようになります。

心臓、腎臓、関節などに病気がある方など、運動が勧められないことがありますので、必ず主治医に相談し、指示に従って取り組むようにしましょう。

薬物療法

糖尿病の薬には、血糖降下薬(飲み薬と注射薬)とインスリン製剤(注射薬)があります。

血糖降下薬にはさまざまな種類があり、個々の患者さんの血糖値の状態、すい臓からのインスリンの分泌量、筋肉や肝臓のインスリンに対する反応性などを測定したり推定したりしながら選んでいきます。

2型糖尿病の患者さんの中でもインスリン分泌が少なくなり血糖降下薬では血糖のコントロールができなくなった方や、1型糖尿病の患者さん、妊娠している方、よりしっかりした血糖コントロールが必要となる(手術予定がある場合など)患者さんには、インスリンを定期的に注射するインスリン療法を行います。

SU薬

すい臓のランゲルハンス島の細胞に働いてインスリンの分泌量を増やす薬です。すい臓の機能が弱っていて、インスリン分泌が十分ではない患者さんに広く使われています。SU薬は、食事と関係なくインスリンの分泌を増やすため、規則正しい食生活と併せて服用しなければ、空腹時に低血糖を起こすことがあります。

速効型インスリン分泌促進薬

すい臓のランゲルハンス島の細胞に働いてインスリンの分泌量を増やす薬です。SU薬と比較して効き目が速く、食事の直前に服用すれば、インスリンがすぐに増えて血糖値が高くなるのを抑えるという効果があり、発病して間もない糖尿病患者さんにみられる食後の高血糖を治療するために使います。効く時間が短いので、指示通りに服用していれば低血糖は起こりにくい薬ですが、飲んですぐに食事をしないと低血糖が起こることがあります。

α-グルコシダーゼ阻害薬

腸でブドウ糖の吸収を遅らせることにより、食後の高血糖を抑える薬です。インスリン分泌に影響しないため、この薬だけ使っていれば低血糖を起こすことはほとんどありませんが、お腹が張る、ガスが増えるという副作用がみられることがあります。

ビグアナイド薬

肝臓や筋肉のインスリンに対する反応を良くする作用、肝臓が糖を作って血液中に送り出すことを抑える作用、消化管からの糖の吸収を抑える作用などのある薬です。主に肥満などによって筋肉や肝臓のインスリンに対する反応が悪くなった患者さんに使います。

インスリン分泌に影響を与えないため、低血糖が起こりにくい薬ですが、まれに重い副作用(乳酸アシドーシスなど)が起こることがあります。

インスリン抵抗性改善薬

肝臓や筋肉のインスリンに対する反応を良くして、血液中のドウ糖が肝臓や筋肉ブに取り込まれやすくする薬です。主に肥満などによって肝臓や筋肉のインスリンに対する反応が悪くなった患者さんに使います。低血糖は起こりにくい薬ですが、むくみなどの副作用があり、太りやすくなることにも注意が必要です。

DPP-4阻害薬

栄養素が消化管に入ると、小腸の粘膜から、すい臓からのインスリン分泌を促進するホルモン(インクレチン)が分泌されます。

DPP-4阻害薬は、このインクレチンを分解する酵素(DPP-4)の働きを抑えてインクレチンを増やすことで、インスリンの分泌量を増やします。

食後(栄養素が消化管に入った時)にのみインスリンの分泌を増やすため、食前と食後のいずれの時間帯でも服薬できます。低血糖は起こりにくい薬ですが、SU薬と併用すると重篤な低血糖が起こることがあり、とくに注意が必要です。

SGLT2阻害薬

腎臓の尿細管にあるSGLT2というたんぱく質には、原尿(尿の元)からブドウ糖を体内に再吸収する作用があります。SGLT2阻害薬はこのSGLT2の働きを抑えるため、体内に戻るブドウ糖の量を減らし、尿中へのブドウ糖排泄を促進します。

このように、SGLT2阻害薬は尿と一緒に体内の過剰なブドウ糖を排出することで、血糖を低下させる薬です。尿中に糖が排出されるとき、薬の服用前より多くの水分が尿として出ていくため、頻尿や脱水などには注意が必要です。

インスリン製剤(注射薬)

すい臓で作られるインスリンの量が十分でない場合に使用します。インスリンがほとんど作られない1型糖尿病では欠かすことのできない薬で、2型糖尿病でも、すい臓のインスリンを作る機能が衰えて、飲み薬では血糖値をコントロールできなくなった場合に使います。

GLP-1受容体作動薬

すい臓のβ細胞のGLP-1受容体に結合することで、インスリンを分泌させる注射薬です。1日1~2回自分で皮下注射します。胃の動きを抑える作用もあり、副作用として悪心・吐き気があります。この副作用を抑えるために、投与量をゆっくり増加させる(漸増法)ことが必要です。単独では低血糖は非常に起こりにくい薬剤ですが、SU薬と併用するときには低血糖に注意が必要です。

高血圧とは?

全身に酸素や栄養を届ける血液は、ポンプとして働く心臓によって全身に送り出されます。この時、血液によって血管にかかる圧力が「血圧」です。高血圧の原因は遺伝~生活習慣など様々な要因があります。

高血圧は、心臓から送り出される血液の量が多くなったり、血管が細く狭くなり血液の流れが悪くなることで、血圧が基準値よりも高くなる病気です。

血圧が高くても、はじめはあまり症状を感じません。人によっては、肩こりや頭痛、めまい、動悸、息切れ、むくみなどを感じることもありますが、こうした症状は必ず現れるわけではないので、高血圧の目安とはなりません。たとえ症状を感じなくても、血圧が基準値よりも高ければ高血圧と診断されます。

高血圧が続くと、血管に大きな負担がかかり、全身のさまざまな血管に障害が起きて、合併症を引き起こす危険性が高くなります。

引き起こされる合併症には、命にかかわるものもありますので、食事療法運動療法薬物療法を行い血圧を適正な値に保ち続けることで、合併症の発病を防ぎましょう。

高血圧の原因

日本の高血圧患者さんの90%を占める本態性高血圧の原因はまだ分かってはいません。しかし、高血圧患者さんの家族には高血圧の方が多いことや、高血圧患者さんの子供が高血圧になりやすいことから、高血圧が起こる原因には遺伝が関係していると考えられています。ただ、遺伝的な要素を持つ方が必ず高血圧になるということではなく、遺伝的に高血圧になりやすい体質を持った方が、塩分のとり過ぎ、肥満、運動不足、喫煙、多量の飲酒など、高血圧の危険性を高める生活習慣を続けると、高血圧が起こると考えられています。

また、高血圧になりやすい体質ではなくても、生活習慣上の問題が大きければ高血圧になる可能性が高まります。こうしたことから高血圧は生活習慣病のひとつに挙げられているのです。

血圧基準値

血圧の基準値は定められていますが、患者さんの年齢やあわせ持っている病気によって、それぞれ降圧目標値は異なります。

◆降圧目標

診察室血圧 家庭血圧
若年、中年、前期高齢者患者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満
後期高齢者患者 150/90mmHg未満
(忍容性があれば140/90mmHg未満)
145/85mHg未満(目安)
(忍容性があれば135/85mmHg未満)
糖尿病患者 130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
CKD患者(蛋白尿陽性) 130/80mmHg未満 125/75mmHg未満(目安)
脳血管障害患者
冠動脈疾患患者
140/90mmHg未満 135/85mmHg未満(目安)

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編「高血圧治療ガイドライン2014」より

合併症

高血圧の患者さんは、動脈硬化によって引き起こされる狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの心臓や脳の病気を合併しやすくなります。なかでも、脳出血は高血圧の患者さんに起こりやすく、その他にも心肥大や腎臓の病気などの合併症も起こります。
高血圧の患者さんでは、動脈硬化が起こりやすくなり、またその進行も早くなります。その結果、心筋梗塞や脳梗塞などの命にかかわる合併症が引き起こされることもあります。

脳出血

高血圧が続くと、脳の細い動脈に動脈硬化が起こったり、動脈の一部に動脈瘤というコブができたりします。その部位に、さらに高い血圧がかかり続けると、動脈や動脈瘤が破れて出血が起こることがあります。これが高血圧患者さんに起こりやすい脳出血です。
多くの場合は、何の前触れもなく突然脳出血が起こり、ひどい時には意識を失い、そのまま命を落とすこともあります。また、一命をとりとめた場合でも、体の麻痺や、言語障害などの後遺症が残ることも多い病気です。

心肥大

全身に酸素や栄養を届ける血液は、ポンプとして働く心臓によって全身に送り出されます。さらに、全身を巡った血液は体に不要となった物質などを運びながら、静脈を通って、心臓へと戻ります。
高血圧の状態では、心臓は大きな力で血液を送り出し続けなければならず、心臓の壁の筋肉(心筋)が異常に厚くなってしまう心肥大が引き起こされます。

心肥大がひどくなると、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血流を送り出せない状態(心不全)になったり、心臓に十分な血液がいきわたらずに胸痛などが起こる狭心症が引き起こされたりします。
また、心不全になり静脈の血流が悪くなると、体がむくんだりします。肺は、酸素を体の中に取り込み、二酸化炭素を体の外に出す働きをしていますが、心不全によって肺の血流が悪くなると、この働きがうまくできなくなり、息切れ、呼吸困難などの呼吸にかかわる症状が出てきたりします。

腎硬化症

腎臓の毛細血管(糸球体)には、血液中の不要な物質を体の外に出す働きがありますが、高血圧が続くと、糸球体の血流が悪くなり、腎機能が低くなる腎硬化症が引き起こされることがあります。腎硬化症になると、全身の血液の量が増え、さらに高血圧が進むという悪循環におちいります。さらに腎硬化症が悪くなると、腎不全となり透析が必要になることもあります。

食事療法

高血圧の食事療法で、もっとも注意すべきことは、食塩の量を控えることです。塩分のとり過ぎは、体内の水分量を増やしたりして、血圧を高くします。現在、日本人は1日10g以上の食塩をとっているといわれますが、高血圧の方は、これを6g未満に抑えることが勧められています。

また、アルコールを習慣的に大量に飲み続けることも、血圧を高くします。アルコールの1日量は、男性で1日20~30mL以下、女性で1日10~20mL以下(エタノール換算)に抑えることが勧められています。

また、腎臓に障害がなければバナナやアボカド、ほうれん草などのカリウムを多く含む食物をとることが勧められます。その他にもコレステロールをとる量を控えること、摂取カロリーに気をつけて適正な体重を保つこと、魚(魚油)を積極的にとることなども大切です。

運動療法

適度な強さの有酸素運動を続けると血圧が下がることが知られています。これは、運動を続けることによって、血圧を高める神経系の働きが調節され、血圧が高くなりにくくなるためと考えられています。また、運動によって、高血圧の原因のひとつである肥満を予防したり解消したりすることができます。医師に相談しながら、できるだけ毎日30分以上を目標に運動を続けましょう。

薬物療法

血圧を下げる薬(降圧薬)にはさまざまな種類があり、それぞれ作用の仕方や使用目的が違います。医師は、患者さんの血圧の状態、年齢、合併症などを考えて、患者さんひとりひとりに合った降圧薬を選びます。降圧薬を2~3カ月服用しても、降圧目標値まで血圧が下がらない場合には、薬の種類や量を増やしたり変更したりします。

脂質異常症とは?

脂質異常症というのは、脂質の中でも特に悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多すぎる、あるいは善玉(HDL)コレステロールが少なすぎる、などの状態を示す病気のことです。

LDLコレステロールは、血液中でコレステロールを肝臓から末梢組織に運んでいますが、多すぎると血管の壁に入りこみ、動脈硬化を引き起こす一番の担い手になるため、悪玉コレステロールと呼んでいます。

HDLコレステロールは、血管壁の余ったコレステロールを肝臓へ戻し、動脈硬化を進行させないように働くので、善玉コレステロールと呼ばれています。

中性脂肪は、多くなりすぎると肥満や脂肪肝をきたし、動脈硬化を引き起こすもとになります。

◆脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

高LDLコレステロール血症 LDLコレステロール 140mg/dL以上
低HDLコレステロール血症 HDLコレステロール 40mg/dL未満
高トリグリセライド血症 中性脂肪(トリグリセライド) 150mg/dL以上

日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版

動脈硬化進める最大の危険因子

悪玉コレステロールや中性脂肪が高い、あるいは善玉コレステロールが低いと、動脈硬化を引き起こすことがあります。

血液中にコレステロールなどの脂質が多い状態が続くと、血管の壁に余分な脂が沈着し、「プラーク」と呼ばれる塊が作られます。こうした余分な脂は比較的短期間で血管壁にたまるため、柔らかくて壊れやすいのですが、時間の経過とともに血管の壁がどんどん分厚くなって、血管が詰まりやすい状態になります。このような、血管の壁の変化を”粥状(じゅくじょう)動脈硬化”と呼んでいます。

不安定なプラークが破れると、破れた部分を修復するため、血液の成分の一つである血小板が集まり血栓ができます。

この血栓が大きくなって動脈を塞いでしまうと、血液はその先に流れなくなり、血流の途絶えた組織や臓器は壊死します。脳動脈が詰まれば脳梗塞、心臓の冠動脈が詰まれば心筋梗塞、足の動脈が詰まれば急性動脈閉塞症を発症します。

脳梗塞や心筋梗塞は、日本人の死因の上位を占めています。このように、脂質異常症を放置すると、症状がないまま動脈硬化が進行し、生命の危険にさらされたり、後遺障害が起こったりするのです。

治療目標値はどれくらい?

普通、血液検査値の基準値はみんな同じですが、脂質異常症の治療目標は、一人ひとり違います。心筋梗塞や狭心症をすでに起こしてしまって治療中の方や、糖尿病や高血圧、喫煙などの他の動脈硬化を進めやすい環境にある方は、より低いLDLコレステロールを目指さねばなりません。

日本動脈硬化学会のガイドラインにはこれらのリスクに応じた目標値が決められています。

脂質異常症の治療

脂質異常症は、多くの場合では食事や運動などの生活習慣が深く関係しています。ですから、脂質異常症の治療の基本は食事療法と運動療法であり、この2つの治療法は長く続けていく必要があります。食事療法と運動療法で脂質が改善しない時や、すでに動脈硬化による心筋梗塞、脳梗塞などの発作を起こしている場合などに薬物療法が行われます。

食事療法

LDLコレステロールの高い人は、飽和脂肪酸(主として動物性脂肪)を含む食品を減らして不飽和脂肪酸(主として植物性脂肪)を含む食品を増やす、コレステロールを多く含む食品を減らす、食物繊維を多く含む野菜などを積極的にとる、トリグリセライド(中性脂肪)の高い人は糖質やアルコールを控える、肥満を解消・予防するために、摂取カロリーのコントロールなどを行います。

運動療法

適度な強さのウォーキングなどの有酸素運動を続けると、トリグリセライド(中性脂肪)を減らし、HDLコレステロールを増やす効果があることが分かっています。また、運動は肥満の予防や解消に役立ちます。

心臓、腎臓、関節などに病気がある方など、運動が勧められないことがありますので、必ず主治医に相談して、その指示に従って取り組むようにしてください。

薬物療法

脂質異常症の薬には、主にLDLコレステロールを下げる薬や、トリグリセライド(中性脂肪)を下げる薬があり、医師は患者さんそれぞれに適した薬を処方します。薬を2~3か月服用しても、脂質管理目標値まで下がらない場合には、薬の変更や増量が検討され、数種類の薬を併用して服用することもあります。
薬の効果をしっかりと出すために、また副作用を防ぐためにも、医師、薬剤師の指示通りに服用することが大切です。薬の効果や、副作用がないかどうかを確認するために、定期的に血液検査を行います。